サハク「やっぱり、遠距離からの砲撃じゃあ、あの結界は貫通できないな。」
無敵艦隊クラッシュ ソードに乗り込む国家元首サハク・シュラインはぼやいた。
それは笑っているようにも見えたし、苦笑いをしているようにも思えた。
世界に多く結界装置はあるが、クラッシュ ソードの砲撃を防ぎきる結界となると、それこそレベルが高い結界となる。
グッゲンハイム大陸を支配するデュミナス帝国やフェルト国家の結界レベルにまで達している。
魔王の張る結界は凄いという噂は確かにサハクは聞いていた。
しかし、ここまでレベルということになると、かなりのものである。
加えて、複数で張るはず結界を個人で構築しているというのは尋常ではない。
部下「やはりアイアトーネ市の部隊が結界を解除してくれないことには攻め込むことは無理ですね。」
サハク「無理でも何でもやってもらわなければ困る。この船では、あの結界を破ることはできない。力押しであの結界は破れないからな。アイアトーネ市の防衛部隊は捨石になってでも、結界を解除してもらう。そして、我がクラッシュ ソードが魔王を潰す。そういう手筈だったはずだろう。」
アイアトーネ市との手筈。
それはアイアトーネ市の防衛兵が結界を解除して、クラッシュ ソードが主となって魔王と戦う。
作戦自体は単純なものだった。
否。
戦略は単純で良い。
要は成功すれば、単調な作戦で良いのだとサハクは言ったのである。
クラッシュ ソードの船では結界解除のような細かい作業はできない。
それこそ、結界は人が結界の前に乗りこんで、詠唱を唱えないと解除できない仕組みなっている。
船の上や力押しで結界解除ができては、結界とは呼ばない。
精霊を媒介にしなければ、結界は解除できない。
部下「シミレーションでは1時間で解除できると息巻いていたんですけどね。実戦となると、兵隊が邪魔したり、ハプニングが起こったりするから、そのとおりにはいかない。1時間が2時間となり4時間となります。多少の誤差は仕方ないでしょう。」
サハク「大変なのはこっちだって同じだ。西の古狸を焼き殺して、休まずこっちに来ているんだ。」
サハクの言うとおり、クラッシュ ソードはつい5時間ほど前まで、フェルト国家と戦っていた。
兵の補充と人員整理、兵器の拡充を行って、すぐさまクロノス自治区に移動しているのである。
連戦に次ぐ連戦を行い、兵士にかなりの労苦を与えているのは間違いない。
事情が苦しいのはクロノス自治区だけではない。
シュライン国家とて、優秀な人員を回すのは容易ではないのである。
サハク「まあ、それでも結界解除はアイアトーネ市にやってもらう。何が何でもやってもらう。そうしなければ、すべての作戦を立て直さないといけない。……まあ、いい。アイアトーネ市の兵士たちにねぎらいの言葉をかけるか。兵士を奮い立たせるは国王の務めだ。おい。魔力コンディショナーをクロノス自治区ホルンの森に合わせろ。魔王と戦っている勇猛な兵士たちに言葉を送る。」
部下「了解。周波数をホルンの森に合わせます。」
サハクは立ち上がり、マイクを持った。
ホルンの森に周波数を合わせれば、自然にアイアトーネ市にる兵士たちの言葉が届く。
それは同時にホルンの森に生きるもの全てに届くので、隠密命令はできないのだが。
だが、サハクのように鼓舞するのであれば、全く問題ない。
サハク・シュラインは怒号のように大きな声で言った。
シュライン国王としての威厳を胸に。
サハク「我が栄光あるシュライン国家アイアトーネの兵士たちよ!!
僕は鯨の少年王のサハク・シュラインだ!!
そうだ!!
君らのシュライン国王だ!!
アイアトーネの兵士諸君に聞きたいことがある。
君らが魔王と戦う理由は何だ!!??
それは君らの家族が竜に食われたからではなかったのか!!
魔王とその眷属である龍に家族を蹂躙されたからではなかったのか!!??
その恐怖に打ち勝つために、我らは魔王に戦争を仕掛けたのだろう!!
我らシュライン国家が元々奴隷民族であったことは周知の事実だ。
龍族の奴隷となって1500年!!
グッゲンハイムを支配するデュミナス帝国の属国となって300年!!
キミらはこれ以上の屈辱と苦難を味わいたいか!!??
奴隷となって生きていきたいか!!??
答えは否だ!!
我らは人間だ!!!
生きている人間なんだ!!
自由もあり、矜持もあり、
心があり、血が通った人間なんだよ!!!!
だから、恐怖に打ち勝てと言っている!!
魔王と戦う勇気を持てと言っている!!
龍に怯えず戦えと言っている!!!
死ぬ気になって、鬼を殺せと言っている!!
我らが本気になって戦って、家族を守れと言っている!!!
シュラインの平和と安全を担っているのは我らだと知れ!!
矜持を持て!!
そのプライドを胸に、
魔王の結界を解除してみせろって言っているんだよ!!!
さすれば、シュラインが誇る無敵艦隊クラッシュ ソードが
魔王を地獄の業火で焼き払ってやると言っているんだ!!!
死ぬ気で戦えっていっているんだよおおお!!!!」
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comment
面白いです
おおっかっこいい指揮官が登場しましたね。
先の楽しみが一つ増えました(^^)
でもこの先の展開を想像すると、
「作戦は合理的で勝利まであと一歩のところまでいくのに
いつも予想外の事態でやられてしまう
気の毒なやられ役」
になってしまうんじゃないかという予感が(^^)
銀英伝のビッテンフェルト将軍みたいな(^^)
気のせいかなあ(^^)
ここからいつもの野暮なツッコミに入りますのでお気に障ったら読み飛ばしてください。
5時間で次の戦場って……。
兵士の休息は……?
補給は……?
現代戦では海戦での勝利のみで大国と講和が結べるはずもないので、フェルトとの戦争は水面下で続行中だと考えると、そんな中でクロノス自治領を攻撃するってのは無謀では……? クロノス自治領がフェルトと同盟を組んだらどうなるんだ。いや対外宣伝効果が。「孤立した」敵ではなくなるってことだからなあ。
いろいろ考えると、うーむ、名将が取るような作戦とも思えんのですが……。
2010/03/29 18:30 | ポール・ブリッツ [ 編集 ]
Re: 面白いです
ポール・ブリッツ 様へ
いつもご愛読ありがとうございます。
サハクはカリスマはありますが、名将ではありません。
彼の行動なんて穴だらけですよ。
私が穴だらけなので何とも言いようがないですが。
彼はこの話ではチョットだけの役です。
本来、彼は『第2次魔王侵攻』のときの主人公であって、この作品ではあまり出てこないお人です。なので、何気に重要なキャラクターです。ただ、この話ではあまり重要ではないです。この作品の主人公はあくまでクロンとカレンですので。二人に花を添えるだけのキャラクターと思ってくれればよいです。
ちなみにフェルトとは絶賛戦争中です。彼は主力部隊をねじ伏せて、戦局が決まったので、こちらにやってきています。ついでに言うと、シュライン国家はデュミナス帝国の属国なので孤立するのはあり得ませんね。
2010/03/29 19:02 | LandM [ 編集 ]
ヒロイックな人が登場しましたね。
若くて強くて求心力があってカッコよくて、国家の広告塔としてはもってこいで……
何というか、悲劇の英雄の条件に合ってるような気がして心配なのは私だけでしょうか;;
ここではサブキャラと言う事ですが、確かにメインで書いても盛り上がりそうな人ですね。
また来させていただきます♪
2010/03/30 19:00 | 若野 史 [ 編集 ]
Re: タイトルなし
若野 史様へ
いつもご愛読ありがとうございます。
サハクは・・・…どうだろう。英雄って柄じゃない設定なんですけどね。
結構泥臭い人間のイメージで作っています。
彼はいちいち切れたセリフを言うので、物語の花を添えるにはうってつけですね。
まあ、彼がどうなるかは、また別の長い話になるので、そのときまでのお楽しみですね。
しかし、セリフだけでここまでインパクトを残せるキャラクターも珍しいですね。
2010/03/30 22:05 | LandM [ 編集 ]
なぜに平和に暮らしているクロノス自治区をそうも目の敵にするのだろう。
恐怖に打ち勝つためと云うセリフに理不尽さがつきまとう。
相容れないものが存在する世界などあるのだろうか。
クロンは共存をのぞんでいるわけではない、いうなれば隔存(造語です)を望んでいるだけではないか。
サハクに何か十字軍のようなゆがんだ正義を感じてしまった。
2010/04/01 04:37 | のくにぴゆう [ 編集 ]
Re: タイトルなし
のくにぴゆう 様へ
まあ、サハクは目の敵にしている・・・…わけですけど。
その辺はまた深い事情がある…ということを説明しておきます。
別に偽善とかおかしな正義感に駆られてやっているわけではありません。
これがサハク主人公だったら、また違った見方が……できるかもしれない可能性もなくはないですかね。
いつもご愛読ありがとうとございます。
2010/04/01 06:05 | LandM [ 編集 ]
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