夜更け。
明かりという概念がない森の遥か上空を竜が飛び交っていた。
単なる竜の戯れである。
竜は空で戯れることでその友好を深める。
意思疎通が様々な方法で図られるが、肌と肌が触れある戯れが一番効果がある。
それは人間や他の生命体にも言えることであり、竜のその法則から逃れることはない。
見る者はこれを異形という。
無理もないことである。このグッゲンハイムの世界ではもはや絶滅した強力な種族。
人間や他の生命体に畏敬の念を抱かせる存在である。
それがいかに竜同士の戯れであっても、恐怖の存在でしかない。
その竜の中に不釣り合いの――――少年がいた。
茶色の髪の毛に可愛らしい顔立ちの少年。それと反比例するかのごとく氷のように冷たい目。
しかし、竜と戯れているこのときは冷たい目も若干緩んでいるように見えた。
今日の昼に魔王と会見。
その後、自治区の住民とも顔合わせをした。
多少……いや、かなり驚いていたようだが、反応は上々だった。
もっと嫌悪感を示すかと思ったが、ここの住民はわりと寛容だ。それは魔王の性格に影響されたのか。
問題はない。
しばらくは何かを起こる気もなければ、戦力もない。
竜王の血を飲んだとはいえ、素体はまだ少年。
あと、10年はここでのんびり過ごせばいい。
その後は……その後次第だ。
マユルは打算的にそう考えていた。
共存というのは言うは易し行うは難しだ。
できればやっているが、それは現実問題難しい。
それを比較的クリアしているのがクロノス自治区であるが。
ここに住んでいる住民も人間に迫害されたものということで理解があるのかもしれない。
ならば、しばらくは大丈夫だ。
マユルも竜の背中に乗って戯れていた。
その姿は歳相応の少年であることが匂わせた。
マユル「―――――――――――――?」
不意にマユルは違和感を覚える。
何か異物が紛れている。この自治区以外の者がまぎれている。
マユルは動物的直感でそれを感じた。
深い明かりもない森でそれを感じる。これは明らかにモンスターやここの住民の気配ではない。
あらかじめこのクロノス自治区一帯を回り、どういう匂いや気配がここの住民かというのを把握した。
でないと、間違えて襲ったりしたらここから追い出される。
だから、確信が持てる。
これは明らかに異物だと。
マユル「―――――――――――――行く。」
確認する必要がある。
そう察した、マユルはすぐさま行動に移った。
自分の乗っている竜に命令をして、異物がいる場所へと舞い降りていく。
その姿は300年前の再現だと言っていい。
古代に雄然と降り立つ一つの竜。
その上に乗る人間。
我がもの顔で羽ばたく竜の羽。
全てが雄大にて、荘大。
人間全てが慄く威圧感であり、圧倒的であった。
マユル「――――いた。」
そして、今、300年ぶりに舞い降りた。
人間の前に。
昔と変わらない威厳さを兼ね備えて。
目の前にいる人間は目の前に事象が理解できないでいた。
風聞や昔話で聞いたことがある壮大にして雄大で我こそは大陸の支配者とたらしめん威厳を兼ね備える生物。
兵士「ひ……。」
見れば鎧を付けていて、屈強そうな男だった。
一般人ではない。明らかに軍人だった。
しかし、このクロノス自治区のものではない。
―――――――すぐにわかった。
これは侵略者だと。
マユルは一般人だったら手心を加えて、クロンに相談する気だった。
しかし、それが軍人だとすれば、ここにやってきたのは意図的だ。
ならば、することは一つ。
―――――――――――――――――――――喰らう。
瞬間、マユルは竜を飛び立ち、人間の首に食らいついた。
文字通り――――――――――――――――――食らいついたのである。
そして、食いちぎった。
兵士「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。」
幸せか不幸か。
兵士の気管支には異常がなかった。
そのため、霰のない声が森をこだました。
鮮血は吹き出し、マユルは血まみれになった。
茶色の髪には食いちぎった筋肉と血液がかかっていた。
マユルはそれを気にすることなく、もう一度首を食いちぎった。
兵士「…………………!!!……………!!!!!!!!!!!!!!」
今度は気管支ごと食いちぎった。
もはや、兵士は声を出せずいた。
あるのは恐怖の表情だけだった。
マユルはそんな兵士の表情には目をくれず、後ろいる竜に人間を投げた。
ドラゴン「ぐうううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!」
そして、人間を……いや、人間だった残骸を丸ごと喰った。
そこには慈悲はなく、愛はなく、情けもない。
単純に生殺与奪の摂理が存在しているだけだった。
マユル「――――――――――あと4人いる。」
兵士「ひ。……な……なんだ!!!!!!な……なんなんだ!!!!!!!!!」
兵士はもはや錯乱状態であった。
冷静に現実を見つめることはできていなかった。
それは無理もない。
300年ぶりに登場する神話や昔話でに出てくる竜が目の前にいるのである。
それはあまりにも非現実的だった。
マユル「――――――――――人間は獣を食べるのだろう。龍は人を食すの罪や否や。」
マユルは機械のように冷たい声で言った。
否。
機械のようにではない。
機械ももっと面白みがある。
機械よりも冷たい氷河のような冷たい声で言った。
人は獣を食べる。草を食べる。
龍が人間を食べることは罪ではない。
それは竜の世界の中では当たり前のことであった。
兵士「ひ……逃げ……うう!!!」
兵士は逃げようと思ってあきらめた。
兵士の周りには竜がいた。
1匹や2匹ではない。
千を超える竜が空と森にひしめいたいた。
それは、まさに人間にとって地獄絵でしかなった。
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comment
竜同士喧嘩ってやったりするんですか?
血肉を奪い合うとか
まさかの食事風景を見られるとは
子供には刺激が強そうな
人間が動物は喰らうのは是で竜が人間を喰らうのは否か?
竜にとって人間も単なる食料にすぎない?
兵士が偵察に来たのかな?
2011/02/27 07:11 | ★ハリネズミ★ [ 編集 ]
★ハリネズミ★ 様へ
喧嘩は・・・まあするでしょうね。
ただ、今は数が少ないですから仲間意識の方が高いと思います。
基本的にマユルはあれですよ。牛肉を食べるのとあまり変わらない感覚だと思います。
牛肉を食べるときは罪悪感を感じて食べる人はベジタリアンぐらいだと思いますので。
兵士は偵察に来てますね。
2011/02/27 20:43 | LandM(才条 蓮) [ 編集 ]
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