クロン「まあ、そろそろ行かねば牢番にもみつかるであろうな。」
オウファン「そうですね。」
大体の情報収集はクロンの中でできていた。
ここまでの情報を統合しても、こちらから動く必要性はない。
あちらが中央の騎士団を動かしてこない限りは時間稼ぎができる。
そうクロンは考えた。
ドラゴンが現れて以来、失態が多くあったクロンだがこのあたりで挽回しないといけない。
持ち前の社交性と根回しで取り繕うことは必要になってくるだろう。
そして、そのための人材がいる――――――――。
オウファン・カラス。
クロンの目の前にいる彼はその適任の人材であった。
人間という身でありながら、他の種族に対しての偏見を持たない。
言うは易しだが、行うは難しい。
だれしも、無意識のうちに偏見を持つ。
それは区別をしているからである。
人間とエルフ。人間と他の種族と言った感じに。
その区別がある以上、偏見はどうしても生まれてくる。
しかし、このオウファンにはそれがない。
それを意識的にやっているのか無意識にやっているのかクロンには分からない。
だが、この人材はこれからの交渉で必ず必要になってくる。
たしかに軍事力と言った単純な力も必要だが、これからの時代は交渉力と言った政治力も必要になってくる。
そのためには、彼はかならず必要だ。
外交をやらせれば必ず光る。
クロン「オウファンはこれからどうなる?」
クロンは何となくわかっていて聞いた。
牢獄に入れられているという時点、あまり将来は見込めない。
このままずっといるか、最悪は死刑というのもあり得る。
オウファン「さあ?まあ、大方戦意高揚の儀式で殺されるんじゃないですかね。『さあ、裏切り者は殺した!!今こそ魔物どもを滅ぼすときだ!!』みたいな感じで。」
クロン「オウファンがそう言うのであれば、間違いないか……。」
このまま死なすのは惜しい。
オウファンを見ていても、悔しさというのは出ていない。
死刑になって当然、あるいは諦めているのか。
どのみち、彼がそこまで拘っているようには見えなかった。
会ったときから感じていたことだが、あまり出世欲はない人物に思える。
だからこそ、ここまで魔王と友好的に会話をするのだろうが。
それこそがオウファンの良さではあった。
クロン「死ぬであれば……。」
オウファン「……はい。」
オウファンはクロンを見た。
クロンは闇よりも深い闇の色をしているようにオウファンからは見えた。
そういう魔法を唱えているから……というのもあるが、魔王であるクロン特有の雰囲気があるからこそとも言える。
闇よりも深い漆黒の中に、瞳が紫色に光っていた。
その姿はまさに畏敬。
まさに魔王。
恐怖が語り継がれ、人間たちが畏怖する魔王の存在そのものであった。
クロン「私のために役に立ってみないか?」
クロンは闇の中から手を差し出した。
つくづくクロンという人物は闇が映えるお人だ……そうオウファンは思った。
オウファンとて考えなかったわけではない。
人間を裏切ることを。
あるいは魔王を裏切ることを。
結局どちらも選べなかったからこそ、こうして牢獄にいるのである。
仮に人間を裏切ることを考えるのであれば、もっと素早く動いて魔王に助けを請う。
仮に魔王を裏切るのであれば、アイアトーネ市の議会に議題としてあげておけばよかった。
彼がどちらも選ばなかった。
にもかかわらず、今更魔王を選ぶのは筋違いのように思えた。
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comment
惜しまれる人は筋が通っている人が多いですね
惜しまれないよう筋の通せる場所に巡り合えていたなら、と思ってしまいますが
無理なく通っている筋に人が惜しんでくれるかはまた別、ですか
〜ん〜深い
2015/11/24 17:48 | rainshot [ 編集 ]
rainshot様へ
個人的に。
生きるってことは筋を通すってことだと思います。妥協は必要ですが、その中でも成し遂げないといけないことがある。
、、、と思うのが、小説に表れているのかもしれません。
しかし、そういうのが伝わったようでとても嬉しいです
(* ̄∇ ̄)ノ
毎度、ファンタジーのコメントありがとうございます!
(^-^)v
2015/11/24 19:20 | LandM [ 編集 ]
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