ミルフィール「ふふふ~~~~ん。」
何も知らないクロンの妻ミルフィールはクロンの服をたたんでいた。
クロンの服の匂いを嗅いで微笑んでいる姿はまさに新婚ホヤホヤの若奥様と言った感じであった。
結婚して5年以上も経過している二人であったが、子どもが呆れるほどの熱愛ぶりは健在であった。
それとは対照的に、クロンは若干冷やかであった。
それは別にミルフィールに対する愛情が冷めたわけではなく、簡単に忙しさの度合いが増したことである。
様々な事件に忙殺されたクロンはミルフィールに構う暇がなかったのである。
ミルフィールはそのことを分かっているので何も言わないが……それでもさびしいという気持ちはある。
ミルフィール「あ。」
ミルフィールは察した。
この気配は自分の旦那が帰ってくるものだと。
今日はどうやらお客様もいるようだ。
ミルフィールは虚空を見つめた。
正確にはクロンが帰ってくると思われる位置を見つめた。
次第にその空間は歪みを見せた。
ドス黒く空間がゆがんだと思ったら、その瞬間紫の魔王とその従者が帰って来た。
ミルフィール「おかえりなさい。クロン様。」
クロン「ああ、帰った。」
オウファン「空間転送移の単独行使……相変わらず便利な魔法ですね。」
クロンが使ったのは空間転送移の魔法である。
一種のワープ魔法であり、非常に高位なレベルの魔法となる。
普段は魔方陣などを使用して大がかりな準備をしなければ使えない魔法だが、クロンはその準備をしなくても即興で詠唱することが可能であった。
それは魔王が魔王たらしめないところであった。
クロン「空間酔いはしていないか?」
オウファン「大丈夫ですよ。」
この手の魔法は使用者は問題がないにしても、ともについてきている者は酔ったり気分が悪くなるものが多い。
クロンはオウファンを見つめたが……そこまで調子を崩していないようだ。
それに、そんなことよりも優先しないといけないことがある。
これからのクロノス自治区の運営についてである。
オウファンが多少空間酔いしていようが最優先で話し合わなければならないことであった。
ミルフィール「あ、オウファンさんお久しぶりです!!」
オウファン「これはこれは魔王妃様。ご機嫌麗しく。」
ミルフィール「えへへ~~~。」
オウファンはミルフィールに近付き、手の甲にキスをする。
流石は人心をつかむのが上手なオウファンはこうしたパフォーマンスもよくする。
クロンは自分にはない能力だと思うと同時に、連れてきてよかったと安堵する。
オウファンとミルフィールは知り合いである。
オウファンは普段クロノス自治区に税の徴収する時にミルフィールと会っている。
持ち前の社交性からミルフィールとオウファンは仲がいい。
もっとも形式的なもので、親しいということではないが。
しかし、さっきまでの緊迫した空気とは段違いである。
これはミルフィールの一種の才能とも言えるような能力である。
場を和ませるという観点においてはミルフィールは未曽有の才能があった。
――――――しかし、今は場を和ませている場合ではない。
緊急事態といってもいいぐらいの事態が発生しているのだから。
ミルフィール「あ、そういえば今日は集金の日でしたね。どうぞ。お茶でも。」
集金―――税の徴収。
随分と懐かしい響きに二人は聞こえた。
なんとかかんとか税を徴収してごまかし合いをしていた時が懐かしく二人は思えた。
オウファンと会って、3年になる。
そこまで種族の共存を目指してやってきたが、今では随分と物騒な話をしているな……そうクロンとオウファンは思った。
お茶を差し出された二人。
クロンは苦虫をすりつぶしたような表情をして、オウファンは相変わらずのポーカーフェイスのように張り付いた微笑。
オウファンは遠慮なくお茶をいただいたが、クロンは飲まなかった。
クロン「いや……今日は……違うんだ……。」
クロンは実に言いづらそうに話した。
ミルフィールが変わらず平和の話をしているからこそ、クロンはつらくなる。
今はそういう時期ではないのだと。
しかし、ミルフィールにはこのスタンスを崩させたくないというクロンの願いもあった。
そのため、クロンはミルフィールに対して上手に言いくるめないでいた。
そうしていると、オウファンはにこやかに話をした。
オウファン「実は私はここが気に入りまして、転居することに決めたんです。」
ミルフィール「ほえ。そうなんですか?」
オウファン「はい。」
ミルフィール「わかりました!!それでは、すぐに転居届の紙を持ってきますね。」
オウファン「ありがとうございます。」
オウファンがそう言うと、ミルフィールは信じ切って転居届の紙を持ってきた。
もっとも嘘ではないのだが……それでも隠しているという事実は変わらない。
それでもオウファンはそのことを気にしない素振りのまま転居届を書いていた。
こういう精神制御は素晴らしいなと思う。
もっとも、それが原因で精神が破たんしなければいいのだが……とクロンは心配した。
オウファンはいつでも笑顔で応対する。
それが過ぎると……いつか爆発してしまうのではないかと心配する。
それが地なのかと思うと、彼の一種の才能だろう。
仇となるか、それとも得となるかは時と場合によりけりなのだろう。
諸々の手続きが終われば、即刻打ち合わせをしなければならないな……と深刻に考えるクロンをしり目に、オウファンとミルフィールはのんびり世間話をしていた。どうにもこの二人がいると、非常に場がなごんでしまうようだ。
ミルフィール「え~~と……はい。OKです。それでは後知り合いの方とパーティーでもしましょう。」
オウファン「そうですね。急に……というわけにはいきませんので明後日あたりでいいですか?」
ミルフィール「はい!!OKです。え~~と、かきかき……。」
ミルフィールが予定表を埋めている姿を見ると本当に平和なのだと思う。
しかし、クロンの心の中は平和ではなかったし、オウファンにしてもそうだ。
シェクスピアにしても、結界構築で奔走している。
……なかなか大変な時期である。
クロンは胃が痛くなりそうであった。
ミルフィール「そういえば、家はどうしょうか?」
クロン「ああ、ここにしばらく住んでもらう。多少話したいこともある。」
政治状況の確認。
戦略の確認。
その他もろもろ重要事項でオウファンと話しておきたいことがあったクロンは、ここにしばらく住んでもらうように提案をした。
それが気に入らなかったのがミルフィールだった。
ミルフィール「が~~~ん!!!」
クロン「ど……どうしたんだ?」
ミルフィール「私というものがありながら、オウファンさんを選ぶんですね!!」
クロン「そんなわけないだろう……。」
ミルフィール「しかも……男……不潔です!!!」
クロン「あのなあ……。」
オウファン「別に私は野宿でもかまいませんよ。愛の巣を邪魔する気はないですし。」
クロン「愛の巣って……。」
ミルフィール「ぽ……。ま……まあ、さっきのは冗談です。ずずず~~と住んでください。」
オウファン「ありがとうございます。」
クロン「ずずず~~ってなんだろう?」
ミルフィール「さあ。」
クロン「まあ、いいが。」
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comment
お邪魔してます
ミルフィールやっぱり可愛い、です
ずずず~~・・・・(笑)
って、和んでいてはいけないのですよね;
大変なのに;
読むの遅いですけど、また来ます
2010/02/18 21:20 | れもん [ 編集 ]
Re: タイトルなし
ミルフィールはこの作品の清涼剤ですからね。一層に和んでやってください。
スーパー奥様ですからね。大変だからこそ、ミルフィールの存在が光りますからね。
読みスピードはひとそれぞれですからね。
ゆっくり読んでいやってください。
シェクスピアの閑話はなくてもつながりますからね。
2010/02/19 06:27 | LandM [ 編集 ]
魔王ってのはよく主人公の前に現れ消える時詠唱などしていませんからね。詠唱などしていたらそんなに時間掛かるのなら走って消えたらいいじゃないか?ってつっこまれるからね。カッコがつかんとも言える。
空間を移動してる時って何か見えるんですか?渦の中をイメージしてるんですが違いますか?それとも瞬時に移動してあっという間ですか?
よく手の甲にキスって描写よく目にする。
自分の読んだ水野良著の某ファンタジー小説にもしているキャラがいましたが、それをする奴は大抵プレイボーイです。オルファンはそう言う部類に入るのかな?
2011/03/22 08:39 | ★ハリネズミ★ [ 編集 ]
★ハリネズミ★ 様へ
基本的に渦の中のイメージですね。高次元というか異次元というかそんな感じで大丈夫です。
オウファンは優男のイメージで創設してますからね。そんな解釈で大丈夫だと思います。
いつもコメントありがとうございます。
2011/03/23 06:23 | LandM(才条 蓮) [ 編集 ]
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