シェクスピア「じゃあ、この指輪はもらっといてね。」
マユル「――――――――ん。」
クロンが禁呪の魔法部隊の様子を見ようと赴いたとき。
魔方陣の中にいたのはシェクスピアとマユルであった。
クロンが入れる雰囲気ではないと思い、部屋の外から覗いているとシェクスピアは何やら指輪をマユルに渡していた。
遠目からではどのような宝石かは分からないないが、それでもシェクスピアが付けている指輪は大概高価なものである。
元々お姫様だったということもあり安物の指輪をつけることはないからである。
それでも、マユルは人間社会のことをよく知らない。
そのような、マユルが持っていたところで豚に真珠の状態であると思う。
……それでも、シェクスピアとマユルが懇意にしていることをクロンは知っている。
シェクスピアが何かマユルにモノをあげるという行為はちょうど母親が息子に何かプレゼントするのと同じ心境なのかもしれない。
そういえば、シェクスピアはあまり家族のことを語らない。
聞いたことはなかったし、聞く気もない。
クロンの経験上、禁呪に没頭する人間は家族というものが破綻している場合が多いのである。
そのため、傷をえぐるようなことをする気はなかった。
むしろ、どう禁呪と向き合い生きていくかが重要に思っていた。
そうした経緯もあり、クロンはシェクスピアの家族のことを聞いたことはなかった。
おそらく、クロンが聞いたところでシェクスピアが家族のことについて語るとは思えない。
シェクスピアとの付き合いは長いが、自分が王族だったこと以外は何も語らない。
聞いたところではぐらかされるのが目に見えて分かっていた。
クロンが考えているとマユルは去って行った。
相変わらずの無愛想なところは変わらないが、それでも会ったときに比べると幾分人間らしくなったのではないかとクロンは思った。
それが事実なのかどうなのかはクロンはもとよりシェクスピア――――そして、マユル自身も分かっていない。
事実としてあるのは、竜以外と馴染むようになったということだ。
それは非常にいい傾向であるとクロンは思った。
なんだかんだでこの自治区は迫害されたものが多く住む街である。
協調性があれば、どのような人種でも住めるような土壌が形成されているのがクロノス自治区なのである。
きっと、マユルもすぐに馴染んでいくことだろう。
シェクスピア「クロン。」
気づいていたのか。
クロンはそう思うと同時に、特に気配を消すようなことをしてなかったと思った。
つまるところ、隠れる気がなかったのだ。
だが、会話に入りにくかっただけであり、タイミングがあれば入ろうと考えていた。
その前にマユルは去ってしまったが。
クロン「ああ。」
シェクスピア「別に入ってくればいいのに。」
クロン「タイミングが合えばな。」
シェクスピア「それもそうか。」
シェクスピアは水色の髪を整えながら話していた。
彼女が髪を整える仕草はいかにも女性的であり、王族ということも関係してか優雅に見える。
クロンがドキッとさせられる仕草ではあるが、それを表情に出すと色々と問題が生じるため自重していた。
香水の香り。
髪につけられている整髪の薬品。
気品がある顔立ち。
どれをとっても王族の女性であり、そして旅人にも見える不思議な印象を与える女性であった。
それは彼女が素情を明かさないことにあるのだろうか。
秘密があればある程、妖艶さに磨きがかかるのかもしれない。
クロンはシェクスピアの姿を見てそう感じた。
クロン「何の指輪を渡したんだ?」
クロンはふっと思いついたように話した。
それがあまり重要なことだとは知らずに。
シェクスピア「旦那との結構指輪―――――だったもの。」
クロン「何?」
シェクスピアは旅に出る前に一度結婚をしている……というのは聞いたことがある。
しかし、禁呪探究の旅に出るため離婚をしているのである。
それはまだクロンと会う前の話ではあったし、クロンもそこまで過去の話を聞く気もなかった。
しかも、それはシェクスピアの話であって真実かどうかはかなり不明瞭な点があった。
こうしてシェクスピアが過去のことを話すのはクロンにとっては初めてのことであった。
シェクスピア「まあ、いつまでも持っていても仕方ないしね。それよりも、誰かに譲った方がいいわ。」
クロン「そうかもな。」
そう言ったシェクスピアどこか晴れやかな表情と同時に哀愁が漂っているようにも見えた。
家族のことと完全に決別した思いだったのか、それともマユルと新しい子どもができたからなのかはクロンには分からなかった。
ただ、彼女の髪が綺麗に見えただけだった。
シェクスピア「そろそろ次の時代を考えないといけないわ。」
クロン「次の時代?」
次の世代とは随分シェクスピアらしくない発言を聞くものだとクロンは感じた。
シェクスピア自身が後のことを考えない刹那的な人物だったことを考えると幾分成長しているのである。
それはマユルを見て感じたことだったのかもしれない。
そういう視点で見ると、クロンから見たシェクスピアは母性がある表情になっていた。
いや、もともとがそういう性格だったのか。
クロンはシェクスピアに対する認識を改めないといけないと思った。
面倒見がいいのかもしれない。
それは後天的なのか先天的なのかは迷うところではあるが。
禁呪の経過を見ていても、後輩の育成は順調である。
竜や歩兵に比べると、進行度合いはトップである。
それなりに禁呪を使える者は増えたし、それなりに魔術師も多く存在している。
この分だと、シェクスピアに次ぐ禁呪使いが出てくるのは時間の問題だろう……と思っている。
今でもシェクスピアがいなくても、クロノス自治区の結界を張ることは理論上可能であり。
もっとも、技術や経験がモノを言うためなかなかシェクスピアでないと難しい点もあるが。
シェクスピア「私たちも30歳が近いわ。まだまだいけるけど……それでも20年30年後を見据えて後継者がいる。しかも優秀な。」
クロン「……確かにな。」
クロン自身それは考えていたことである。
自分がいるときはまだまだ大丈夫だと感じているが、その後はかなり厳しい。
自分がいるからこそ、各種族が分け隔てなく生活しているのであって、それがなくなると各種族ごとの諍いが生じる可能性は大いになる。
そして、人間との外交もうまくいくかどうかは分からない。
自分かそれ以上の人材がいなければクロノス自治区は立ち行かない。
それを頭の中には入っていた。
世襲制は考えて止めた。
世襲して乗り切れるほど情勢は平和ではない。
世襲が許されるのは情勢が安定している時であり、クロノス自治区のようにあらゆる危険がはらんでいる自治区では常に実力があるものが統治しなければ混乱を生ずる。
シェクスピア「私は禁呪の後胤を探す。だから、貴方は……。」
クロン「分かっている。この自治区を治められる人材を育成する。それと同時に……。」
シェクスピア「ええ。今の問題も対処していかないとね。」
すべきことは多くある。
それはクロンもシェクスピアも思ってきたことである。
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comment
衝撃的事実みたいな
結婚してたんで?
何かショックだな
その人って今後出てきたりするの?
それとも出て来ないの?
王族との政略結婚ってやつだったのかな?
2011/06/03 12:21 | ★ハリネズミ★ [ 編集 ]
★ハリネズミ★ 様へ
おそらく設定でも書いてあったと思いますけどね。
消息不明の娘と生存している息子がいますね。
旦那の設定ももちろんあります。
かなり詳細かつ綿密に作ってあるのですが、今回の話には全く関係ないので登場しないです。
彼が登場するのは結構後のほうです。
まあ、今連載しているものには旦那が少し出てますけどね。
2011/06/03 18:51 | LandM(才条 蓮) [ 編集 ]
後継を考えることはいいことだよね。
未来を考えることだものね。
指導者が未来のビジョンを考えないようでは、この戦争。
やる前から負けてしまう。
そういう事に考えが及ぶ処がいい。
彼女はクロンに相応しい。
2012/06/01 19:31 | ぴゆう [ 編集 ]
ぴゆう 様へ
そうですね。
後のことを結構考えてますね。
後継者は色々いるんですけどね。
・・・。
・・・まあ、あの男の継承者は。
意外なとっから出てきますけど。
2012/06/02 08:11 | LandM [ 編集 ]
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