クロン「シェクスピア…………。」
クロンもカレンの来訪とシュラインの侵攻をただ見ていたわけではない。
状況を把握したのち、竜と歩兵の統率に忙殺されていた。
結界は破かれていはいないものの、それでも進行してくるのは時間の問題であった。
このままいけば全面戦争になる―――――。
今まで竜も歩兵も加減をして戦わせている。
全ては全面戦争を避けるため――――にやっているのだが……それも限界に来ている。
マユルはなんとかカレンと戦っているし、シェクスピアも上手くサポートをしていた。
それも限界が来た――――――。
一つは全面戦争。
これ以上、防戦を続ければこちらに損害が出てくる。
攻めに転じなければ、死傷者が増える一方の状況になっている。
もう一つは――――――――。
魔方陣の上では鮮血と肉片が飛び散ってた。
明らかに人の生きるための血液量以上の血が地面に流れていた。
水が流れているのとはわけが違う。
血液は人の生命の源である。
水分だけではなく、生命を維持するための栄養や機能が埋め込まれている。
そのため、水のようにサラサラしているわけではなく……悪い言い方をすればドロドロしている。
シェクスピアの血液が魔方陣一帯を支配していた。
間違いなく死ぬ―――――――――そう断ずることができるぐらいの血液が流れていた。
クロンは静かにシェクスピアを抱きあげた。
壊れものを扱うように静かに優しく―――――。
そして、シェクスピアと共にクロノス自治区の景色を眺めた。
―――――せめて、眠るときは安らかな景色を見せたかった。
クロンはそれを後悔した。
クロン「すまなかった。」
クロンは様々なことに対しての謝罪をした。
シェクスピアはここまで禁呪に探究させた一因として――――。
ここで死を迎えることに対して――――。
もし、彼女は普通に王族として過ごしていればもっと生きれた――――。
紆余曲折を経てここまでやってきた。
そして、クロンのために尽力してきたのがシェクスピアだった。
結界にしても、他の庶務にしても、今のクロノス自治区があるのは一重に彼女の助けがあったからだ。
それに甘えた結果――――このような結果になったのである。
シェクスピア「……………だい……じょう…………ぶ。」
シェクスピアは口をぱくぱくさせていた。
呼吸を求めているのと、そしてクロンに伝わるように。
クロン「マユルは戦っている。彼が死ぬことはないだろう。」
シェクスピア「そうね。」
シェクスピアは聞こえないような掠れ声で喋っていた。
もう呼吸するのも厳しいはずだが、それでも最後の力を振り絞って喋っていた。
そんな状態でもマユルのことを気遣うシェクスピアが不便で仕方なかった。
彼女の人生で幸せと言える時があったとすれば――――――それはマユルと一緒に過ごした時だったのかもしれない。
マユルと過ごし――――マユルを見守る。
それこそが彼女の幸せだったのだろう。
マユルは―――――と思い探してみる。
大きな爆発とともに竜が飛来している姿が確認できる。
カレンと戦っていた。
おそらく、この時代における最大級の戦いを演じていた。
竜と人間の代表として二人は戦っていた。
――――ならば、自分は心おきなくシェクスピアと接することができるなと思った。
シェクスピア「ねえ………クロン………どこ……?……寒い……よ。」
抱き上げているのだが―――――言おうとして止めた。
もう目が見えてない。
大量の出血によって目が見えなくなっているんだろう。
もうその時が近い――――――そう思った。
それもそうだろう。
魔方陣一帯に大量の血が流れ込んでいる。
そして、抱き抱えているクロンの漆黒の服の袖にも分かるほどの血が付着していた。
もうすぐ死ぬ。
いや、ここまで生きていること自体が不思議なぐらいだった。
クロン「ここだ。」
クロンは抱きあげている腕の角度を変えて、無理やり手をつないだ。
冷たい―――――。
死体を触っているのかと思うぐらいシェクスピアの手は冷たかった。
シェクスピア「えへへ……よかった……うん……つないで……くれて……ありがと……。」
シェクスピアは無邪気な笑顔だった。
無理に作っている感があったが、それでも安らかに眠れそうな笑顔だった。
ここで安らかに眠ってほしい。
そうクロンは切に願った。
シェクスピア「……結局、全部中途半端だったな……。娘もアイツ……も。」
クロン「シェクスピア。」
シェクスピア「……ごめんなさい。先に逝っちゃうことを……許して…………。」
声をかけようとして……クロンは止めた。
シェクスピアの握っている手が―――――――ずり落ちた。
クロンは眼を閉じた。
そして、目の前にある光景を眺めた。
広がっているのは戦争の風景だった。
竜と人間は争い―――――竜王と勇者は戦っている。
人間とエルフやダークエルフ・ワイルフは懸命に闘っていた。
この光景を防ぐために努力してきた二人の戦いは終わった。
―――――――これからは戦いによって、人間以外の種族が自由と力を得るために。自分は名実ともに魔王になるときだった――――――――。
クロン「大丈夫だ、シェクスピア。お前が望んでいたことは全部果たしてやるさ。」
クロンは死んだシェクスピアを強く抱きしめた。
―――――――――――――――冷たい身体だった。
グッゲンハイム1905年。
第一次魔王侵攻は始まった。
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comment
こんばんは。
扉絵を最初に見たとき、かなり衝撃を受けました。
まさかシェクスピアが…。
でも最期はクロンの腕の中で、きっと幸せだったと思います。
竜と人間の戦い。
そしてクロンの決意。
これから彼らがどのような展開を見せるのか、楽しみになってきました。
応援していますので、2部もまた頑張ってください。
2010/02/13 18:49 | 鈴代まお [ 編集 ]
Re: こんばんは。
いつもご愛読ありがとうございます。
シェクスピアがここで死ぬのは、彼女を作った段階で決まっていました。
それと同時に最も設定を練りこんでいたのも彼女でした。
旦那と離婚したこと、娘が神隠しに遭遇して行方不明なこと。息子を置いて旅をしていること。……そういった彼女がここで死ぬのは勿体ないですが、それでも話の都合上ということで。
また2部もお楽しみくださいませ。
本当に最後まで読んでいただいてありがとございます。
2010/02/13 19:24 | LandM [ 編集 ]
再開までに最後までたどり着けました(^^)
面白いですね。
作戦級でボードゲームを作ってみたい誘惑に駆られます(^^)
こんな根性悪の勇者なんてランスくらいしかいないんじゃないですか。ランスといっしょにしたらカレン激怒するかもしれませんが。
わたしの好みからいうと、魔法はアイテム含めて一切使えず、武術と盗賊系統の技能だけでシェクスピアレベルの術師と互角に戦う人間が見たいのですが、そういうやつは出て……来ませんよねえこの設定では……。
ナイトメアハンター桐野に一段落ついたら、昔書いたファンタジーをもう一度引っ張り出して改稿しようかな、という気分になりました。やっぱりファンタジーは血が騒ぐなあ。
2010/02/27 15:26 | ポール・ブリッツ [ 編集 ]
Re: タイトルなし
お褒めいただきありがとうございます。
ポール・ブリッツ様にお褒めいただくとちょっと安心しますね。
LandMです。
設定上、魔法はこの世界にはなくてはならないので……ちょっと要望には添えないかもしれない・・・ですね。まあ、その辺は考えてみると面白いかもしれないですが。一応、ここは王道ファンタジーを展開しているので、続きも気になったらまたやってくださいませ。意欲向上につながって何よりです。
それでは失礼いたします。
2010/02/27 21:37 | LandM [ 編集 ]
5章はじまってから、詠唱とか戦闘とか面白すぎてめちゃくちゃ読めました
ってわああああーーシェクスピアーー!!・゚・(ノД`;)・゚・
かっこよすぎじゃないですか・・(泣
マユルを守って・・・。
遅くなりましたが、また来ますっ;
2010/03/13 17:40 | れもん [ 編集 ]
Re: タイトルなし
れもん様へ。
確かに詠唱は気合を入れまくっている話ですね。
今更ながら思いますが、あんなに長くなくってもよかったよな~~と少し後悔。
まあ、別にいいんですけど。
書いたものは仕方ないので。
大分一気に読んで下さってありがとうございます。
ご愛読に感謝感謝です。
2010/03/13 18:33 | LandM [ 編集 ]
おじゃましております。
さっそくお邪魔しております。日賀美沙奈です。
まだシステムの準備中だったようで、本当にお邪魔になったようですみません。急転直下の4章から5章を一気に読ませていただきました。
カレンさんがいつ話に関わってくるのかとやきもきしておりましたが、やってきたとたんに大変なことになってしまいましたね。シェクスピアさんの死も思いもよらない展開で驚きました。平和主義に徹していたクロンの心情がどう変化するのか、続きを楽しみにしたいと思います。
またお伺いします。ありがとうございました。
2010/06/24 18:28 | 日賀美沙奈 [ 編集 ]
Re: おじゃましております。
ご愛読ありがとうございます。
今は準備期間ですので、気になさらずに。
それなりに形にはなっていますので。
>
4~5章あたりから急転直下ですね。
その辺から『らしさ』が出てくるのではないでしょうか。
…と思います。
シェクスピアが死んだのが驚いたのはみんなですね。
私も製作段階では死ぬのが決まっていたんですが、かなり死ぬかどうか微妙なラインで書いていた記憶があります。結局生死2パターン話の原案を作っておいて、あとは流れに身を任せる…という感じでした。
書いていて死ぬとは思わなかったです。
基本的に自分が驚く・感動する展開でないと読者は驚く・感動することをしないと思っているので、それを念頭に書いております。私もシェクスピアが死んだのはびっくりです。
いつもコメントありがとうございます!!
2010/06/25 05:41 | LandM(才条 蓮) [ 編集 ]
シェクスピア……。こんな風に最期を迎えるとは衝撃でした。
全力で駆け抜けたけど、普通の幸せとは縁遠い人生。
最期は、「やりきった」と思って逝けたのかな。
1898年と合わせて、本当に印象的な女性でした。
ここまでが1部なのですね。2部も楽しませていただきます。
新連載も楽しみです~。
2014/11/25 15:22 | 椿 [ 編集 ]
椿 様へ
こうなるとは作者も予想してなかったので同感です。
書いてみて、あれえ?って感じになってしまった。
しかし、一回書いたものは取り消さないのが
LadnMの不文律なので。
この辺は突っ走りました。
また2部もお楽しみ!!
ありがとうございます!!
2014/11/25 20:58 | LandM [ 編集 ]
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